2013年度(第86回)アカデミー賞外国語映画賞|日本からの出品作が決定(『舟を編む』)

2013年度(第86回)アカデミー賞外国語映画賞部門への日本からの出品作が決まりました。



● 日本代表作選考への出品受付の窓口となっている 一般社団法人日本映画製作者連盟 の発表
 http://www.eiren.org/academy/exhibition.html



日本代表作選考に対して何作品の出品申請があったか / どの作品が日本代表作選考に対して申請をあげてきたのか / 選考したのは誰なのか 等の詳細は公式には一切発表されません。代表作として決まった作品の名のみが発表されます。


昨年(=2012年度)アカデミー賞外国語映画賞へは71ヶ国から出品されました。(一ヶ国につき1作品のみ出品可能。)その中から5作品がノミネートされます。



日本からの出品作
舟を編む
英題|The Great Passage
監督|石井裕也 Yûya Ishii


報道を見て、この選択に仰天。 

『そして父になる』は劇場公開日をわざわざ繰り上げて出品規定に合うようにしたのに……あの公開日程では規定を満たせないのかなあ。日本代表作として『そして父になる』か『風立ちぬ』が出品されてきたらアカデミー賞外国語映画賞ノミネート有望だとアメリカのオスカー・ウォッチャーたちから予想されていたのに。


個人的には今回の決定は stupid choice だと思いますが、まぁ『舟を編む』もフィールグッド・ムービーらしいので、フィールグッド・ムービー好きのアカデミー賞外国語映画賞選考委員の人に気に入られ『おくりびと』みたいな奇跡が再び起きるかもしれませんが、あの頃とは選考委員の好みも少々変化してきているのであんなふうにうまくいくかどうか……(あの時も『おくりびと』受賞はサプライズで、むこうでも仰天されてたけど。)さて、どうでしょうか。カンヌ国際映画祭でオフィシャルな賞を受賞した『そして父になる』やベネチア国際映画祭のコンペ入りした『風立ちぬ』を押しのけて代表作となったのが国際的知名度の低い日本映画ということで、アカデミー賞外国語映画賞選考委員たちの『舟を編む』を見る目は厳しくなるかもね。(なお、アカデミー賞外国語映画賞部門のノミネートのための投票はアカデミー会員の全員投票ではありません。外国語映画賞選考委員の投票によってノミネート5作品が決まります。)




(2013/11/10 追記)
国内選考で『そして父になる』が落選したこと(そして、他にも代表作選考にやや難があった国があったことで)各国代表作の選考に関して意見記事(アメリカ:バラエティ誌)も出ました

(2014/04/24 追記) 作品を鑑賞してみて判る「これじゃ勝負にならないだろう」感。この作品では一次予選突破(=最終選考に進む9作品入り)でさえも夢のまた夢でしょう。人間関係も全体の語り口もひたすら古典的で、この部門をこれで勝ち抜こうなんてちょっと無理でしょう。他に無ければこれを出品するものよいでしょうが、そうじゃなかったのにわざわざこれにしたとは。なんでだ……。『そして父になる』や『風立ちぬ』が一次予選突破(=最終選考に進む9作品入り) できたか、またその先のノミネート5作品に入れたかは分かりません。無理だったかもしれません。でも少なくとも『舟を編む』よりはずっと可能性はあった。

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アカデミー賞外国語映画賞


まず、アメリカの映画芸術科学アカデミーから各国へ外国語映画賞部門への出品要請が行われます。アカデミー賞外国語映画賞のコンペティションに参加する意志のある国は、それぞれの国の代表作品(1作品)を選出し、出品します。その際には映画芸術科学アカデミーにより決められた外国語映画賞部門の出品規定をクリアしていることが前提です。(出品後、映画芸術科学アカデミーにより出品規定が守られているかどうかが審査され、規定をクリアできていない作品は受理されません。)


なお日本代表作選考ですが、同部門へ出品する意思が有る作品が日本映画製作者連盟の"アカデミー賞外国語映画賞部門への出品募集"に対して応募します。そのうえで、定められている出品規定に反していないかどうかを含め選考されます。応募しなければ選ばれませんし、出品規定に則していない作品もはじかれます。 


各国共通の出品条件として、出品国にて前年の10月から該当年の9月末までに一週間以上劇場公開されたことが定められています。(国内での劇場初公開が条件。劇場公開より先にTV放映されたものはダメ。) ほかにも、使用言語の割合(出品国で使われている言語と他国の言語との割合) / 監督が出品国の人間であるかどうか / (他国との共同製作の場合)出品国の出資比率などの規定もあるようです。


参加国は年々増え、例年60ヶ国以上の国から出品されます。(2012年度は71ヶ国から出品されました。) 各国からの出品の締め切りは10月01日。各国代表作のフルリストが映画芸術科学アカデミーから正式発表されるのは例年10月上旬です。


そのあとは、まず第一段階として「外国語映画賞部門の最終選考に進む9作品」が選ばれます。この9作品のリスト、2012年度は2012年12月22日に発表されました。(それ以前は翌年の1月上旬でした。) この9作品の中からノミネート作5作品が選ばれます。「外国語映画賞部門の最終選考に進む9作品」のリストは、例年、ノミネーション発表の一週間~数日前に発表されます。


アカデミー賞外国語映画賞部門のノミネート5作品に入った作品の関係者がアカデミー賞授賞式に招待されます。(外国語映画賞部門のノミネート5作品に入らなければ授賞式には行けません。) 本年度(2013年度)ノミネーション発表は、(現地日付で)2014年01月16日の予定です。


そして授賞式にて受賞作(1作品)が発表・表彰されます。本年度(2013年度)の授賞式は、(現地日付で)2014年03月02日の予定です。



外国語映画賞部門受賞作決定までの流れ
各国からの出品の締め切り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2013年10月01日
各国からの出品作全リスト発表・・・・・・・・・・・・・・・・・・2013年10月上旬予定
「外国語映画賞部門の最終選考に進む9作品」のリスト発表・・昨年(2012年度)は2012年12月22日でした。
アカデミー賞各部門へのノミネーション発表・・・・・・・・・・・・2014年01月16日予定 
アカデミー賞授賞式 (受賞作発表)・・・・・・・・・・・・・・・・2014年03月02日予定


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(2013/11/10 追記)

【関連記事】

dot.(ドット)|朝日新聞出版 2013/10/24付け更新 (※週刊朝日  2013年11月1日号)
「そして父になる」がアカデミー賞候補になれない意外な理由

この中で語られている映画ライターの紀平氏の主張はどうなのか。ちゃんと理解されていると思いますけどね。むしろ(上のバラエティ誌の記事でも書かれているとおり)『そして父になる』のほうが選ばれやすいと言われているのに、何言っているんだろう。そして、国内選考も(他国ではやっている)アカデミー賞外国語映画賞の″傾向と対策″を考慮していないそうで。世界の潮流を考えていない/掴んでいないと胸を張っているという滑稽さ。選考委員がガラパゴス化。話にならない。それに、マスコミとしては「どの作品が日本代表作選考に対して申請をあげてきたのか」「選考したのは誰なのか」をなぜ公表しないのか?ということを指摘するべきじゃないのか。




Yahoo! ニュース 個人  2013年9月7日付け
意外に知られていない「アカデミー外国語映画賞」の選ばれ方

『おくりびと』が受賞した2008年度から同部門の傾向は微妙に変化しています。それは『おくりびと』という作品が受賞したことを受けての変化です。(『おくりびと』は「はたしてあの作品を受賞させてもよかったのか?」という議論も一部で起こりました。)この記事はその微妙な変化を追い切れていないように思います。(上のバラエティ誌の記事でも書かれているとおり)2010年度の『籠の中の乙女』(2009年カンヌ国際映画祭ある視点部門受賞作)のような演出の作品をも選ぶようになっています。従来の傾向とおりの(アート系とは一線を画したタイプの)作品も同時に選出されているのも確かなので、この記事が傾向を読み間違えているとは言えないとは思いますが。




(2013/12/17 記)
日経エンタテインメント!   2013/12/16付け記事
米アカデミー賞 日本代表はなぜ「舟を編む」なのか

※今年の選考委員は7人。映画評論家の品田雄吉氏、脚本家の石森史郎氏、映画祭ディレクターの大竹洋子氏、映画プロデューサーの角谷優氏、映画ジャーナリストの野島孝一氏、撮影監督の高間賢治氏、映画監督の平山秀幸氏が名を連ねる。 応募作は、出品側の要望で非公開だが、今年は15本集まった。例年は25~30本というから、少なめだ。


今回の「舟を編む」は、この「おくりびと」に類似点が多いという。 「『おくりびと』は、お弔(とむら)いの方法(納棺)が日本独自の文化だったのがよかったのだと思う。一方で、お葬式やエンバーミング(遺体保存)はどの国にもあり、共感ポイントもある。この両面を持ち合わせていたから、アカデミーを獲れたのではないか。『舟を編む』も同様のことが言える。辞書の編さんは万国共通の職業だが、日本というのは特別。字引が世界の入り口となり、日本語で独自の世界が見せられるという作品のあり方が、『おくりびと』に近い」(品田氏) 今回の選考委員の7人中6人が、「おくりびと」のときのメンバー。11年には「告白」がノミネート手前の9本に残るなど、好成績が続いている。 「議論を詰めた後での投票で、全員の合意で決まるわけではない。世間でも、賛否両論があって当然だと思う。ただ、選ばれるのは1本だけ。打算も政治もなく、アカデミーに見せたいと思える日本の作品を選んできたが、近年結果にもつながっている」(同氏)


好成績が続いている??? 2010年度に「最終選考に残った9作品」に入っただけで全然続いてないではないですか。 上↑でも書いたとおり『おくりびと』が受賞して以来ノミネート傾向は変化したのですが、いまだに『おくりびと』基準なんだもの。 (それに品田氏の発言、dot.(ドット)の記事(2013/10/24付け)で語ったこととニュアンス変わっているじゃないか。dot.(ドット)では「長年選考にかかわっていますが、どんな作品ならアメリカでウケて賞が取れるか、という意見は出たことがない」って言っているのに、ここでは「(今回の代表作は『おくりびと』と似ている」などと”傾向と対策”は考えて選んでいるみたいな発言。) とにかくこれで、他の国から、どういう作品が出品されてきているか/その作風の傾向や変化を選考委員は全然チェックしていない、ということがはっきりしました。傾向は刻々と変わっているのに。『おくりびと』なんてもう5年も前のことなんだよ。 ―『舟を編む』はノミネートの有望候補としては全く名が挙がっていませんが、何ごとにもサプライズというものはあるものです。それを期待しましょう。石井裕也監督は若い監督(30歳)ですし、そういう若い監督が外国語映画賞部門の最終選考に残ったりノミネートを果たすということがもしも起これば、それはそれで大変喜ばしいことです。



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