アカデミー賞作品賞ノミネート数を 5 に戻す!?|Hollywood Reporter の記事より

シネマトゥデイ  2015年3月4日付け記事
アカデミー賞、作品賞候補を5作に戻すことを検討中

映画芸術科学アカデミー協会が、アカデミー賞作品賞候補を現在の最大10作からかつての5作に戻すことを真剣に検討しているという。The Hollywood Reporterが関係者の話として報じた。 <中略> 今年の第87回アカデミー賞では8作品が作品賞にノミネートされたが『アメリカン・スナイパー』以外は独立系の作品で、米ABCが中継した授賞式の平均視聴者数は昨年から約16%ダウンという散々な結果に。ブロックバスター作品を入れるためにノミネート数を増やしたもののアカデミー会員が選ぶのは独立系の作品ばかりで、それでは希少価値を減らしてまで数を増やした意味がないということで、5作に戻すという話が持ち上がったようだ。



元記事はこちら。

Hollywood Reporter  2015年3月3日付け記事
Oscars: Academy Weighing Return to Five Best Picture Nominees (Exclusive)



「5作品に戻したところで会員たちが売り上げも知名度も低いインディペンデント映画を5作品選出したら同じことではないか。アカデミー、大丈夫?」「問題点は ”ノミネート数が5か10か” ということにあるのではない」「ノミネート作を5つに絞ったところでその5つに凡庸な作品が入ってしまえば希少価値やノミネート作品に対する信用は生じない」というツッコミが一斉に起きている模様(笑)。ノミネート作品数を5へ戻して欲しいという意見はずっとあって、そう思っている人にとっては良きお知らせかもしれませんけど。

なぜ映画芸術科学アカデミーが視聴率の高低をこれほど気にするのか?それは授賞式の放映権の価格にかかわってくるから。映画芸術科学アカデミーの運営は授賞式の放映権で大半が賄われていると言われています。高額の放映権を買って放送するテレビ局側は低視聴率のせいで授賞式放映時に流すCM枠がいつまでも売れ残りその挙句にCM販売価格を下げなければならなくなるということを避けたい。スポンサーにとって魅力的なCM枠であることをアピールし高値で売るためには高視聴率を維持しなければなりません。(毎年、授賞式のCM枠がいつごろ売り切れたかが記事になる。早く売り切れればその年の授賞式中継番組への視聴者の期待は高いということになる。)

視聴率が下がる→スポンサーからCMの価格の値下げを要求される→テレビ局は映画芸術科学アカデミーに授賞式放映権の価格の値下げを要求→映画芸術科学アカデミー、困る……こういう状況が2007年度(作品賞受賞は『ノーカントリー』)授賞式の視聴率が落ちたときに起き、翌年の2008年度授賞式のオープニング・パフォーマンス時には「アカデミーからお金が無いって言われているけど、やるしかないね」とトークのネタにされたりもしました。

2008年度はブロックバスター映画であってもノミネートされておかしくないと言われた人気作『ダークナイト』が落選するということが起き、大騒ぎに。若年層のアカデミー賞への関心の低下が懸念されました。2008年度はヒュー・ジャックマンの司会ぶりとミュージカル色の濃いパフォーマンスが好評で視聴率は回復しましたが、『ダークナイト』の落選で批判されたことを強く受け止めた映画芸術科学アカデミーは、バラエティに富んだラインナップになるようにと2009年度から作品賞ノミネート数を増やました。それから6年。その結果はどうだったか。記事でも触れているように、ノミネート数を最大10まで広げても結局は2014年度のようにノミネートされる作品は知名度の低い(=一般観客にはそれほどその存在を知られていない / 鑑賞されていない)作品ばかりが並ぶことに。そして、2014年度の授賞式視聴率はここ6年のうちで最も低くなりました。(近々6年のうち最低ということは、2007年度は2014年度よりさらに悪かったということですね。)

2014年度は何が作品賞受賞作品になるかという予測が立ちにくく、予想屋さんたちの受賞予想も真っ二つに割れたまま授賞式を迎えました。毎年、アカデミー賞は予測が立ちやすくて(predictable)つまらないと言われますが、2強のどちらが作品賞を受賞するか当日まで予想がつかないというスリリングな状況であったにもかかわらず視聴率は落ちました。どちらもノミネート発表時までの劇場売り上げは高くなかった(=一般観客にはそれほど鑑賞されていない)。

ノミネート数を5に戻しノミネートされた作品の希少価値を上げたところで、それに反応して視聴者数が回復するのか。視聴率回復/高視聴率の維持のための改善ポイントは「ノミネート数が5か10か」「ノミネート作品に希少価値が生じるかどうか」にあるのか。そこですよね。

アカデミー会員の嗜好と一般観客のそれとの間に距離ができてしまった。(そして、そのアカデミー会員が拠り所としている批評家たちの評価基準も一般観客のそれとは距離がある。) ノミネート枠を広げたのにバラエティ豊かなラインナップにならないというアカデミー会員のチョイスの仕方や投票&選出過程のおける不備。そこをどうするか。そういうことじゃないでしょうかね。最大10まで枠を広げたことで多様性の確保が出来た年もあった(アニメーション作品や外国語映画がノミネートされた年もあった)のに、5枠に戻すというのは多様性の確保に逆行するのではないかという指摘もあります。




ノミネーションの投票の時に、批評家たちが口をそろえて褒めアカデミー賞予想屋さんたちが上位にリストアップしたような映画だけ見て投票するから、そして配給会社がキャンペーンで強力に推した映画の中から選んじゃうから、偏りのあるラインナップになる。配給会社は通常の宣伝だけでは売り上げが伸びそうもないタイプの作品(社会派映画とかアート系映画とか地味な作風の映画とか時代もの映画とか)を受賞効果を期待して推してくることも多いから、配給会社のキャンペーンで強く推された作品から選べば知名度の低い作品が並びやすくなる。自分たちでもっと幅広く沢山の映画を見て、他人の意見やキャンペーンに左右されず自分で判断して投票すれば、結果もちょっとは変わるでしょう。

それに(ずっと指摘され続けている通り)アカデミー会員の「ホワイト・オールド・ボーイズ・クラブ」な構成を是正すればいいのよ。若い会員、女性会員、有色人種の会員をもっと増やすの。

あと ”NYとLAで一週間の限定公開すれば出品可能となる” という制度を制限したほうがいいんじゃないのかなあ。 限定公開のみで一般観客が殆ど鑑賞していないのに「今年を代表する作品です」なんて言われたって「そんな映画、知らん。いつ公開したの?」「地方じゃ劇場公開してないよ!」ってことになるでしょう。 ”一週間の限定公開で権利取り可” になっているのは ”小規模公開作品に対する救済” という目的があるからだろうけど、昨今は戦略的に活用され過ぎているんじゃないかなあ。

そういうところを変えずに、元に戻しても同じことの繰り返しじゃないでしょうか。5に戻したら戻したで「〇〇が入らないのはケシカラン」「××が入って△△が入らないなんて……アカデミー会員の目は節穴か」とか、またブーブー言われるだけ。…… あー、もしかしてブーブー言われたほうが話題になっていい、ってこと?


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いろいろな提案が出てきています。楽しいですね。

各組合賞の発表が早過ぎるのではないか。アカデミー会員の投票が組合賞の結果に左右されてしまうし受賞結果の予測が付きやすくなってしまいスリルがなくなるから、アカデミー賞授賞式の後(もしくは、会員が行うアカデミー賞への投票の後)にしたらどうか。

授賞式自体の構成&演出の見直しも必要ではないか。(無駄なパートが多く、式が長くなり過ぎている / ギャグが古臭い / ギャグが下品 / そつなく仕上げようとしていて弾けない、等) これは毎年出てくる指摘ですが。

忙し過ぎるアカデミー会員たちに充分に選考する時間を与えるために、エントリー要件である「(該当年の)12月末日までに公開」という条件を「11月末」に早めたらどうか。

(同じく、アカデミー会員たちが多くの映画を鑑賞できる時間を充分に確保できるように)ノミネート発表や授賞式をそれぞれ一か月遅らせてはどうか。

現行の投票では、作品賞に関して最大で10作品まで1位から10位まで順位を付けて投票するようになっているがなにも10作品選ぶ必要はなく、「作品賞ノミネートにふさわしい映画は3作品しかない」と思えば3つだけ選んで順位をつけて投票もできる/5作品しかないと思えば5つだけ選んで投票できる/1作品しかないと思えばひとつだけ選んで投票できるシステムになっている。(つまり、10作品以内ならいくつ選ぼうとかまわない、ということ。) それを変え、全員が10作品必ず選出し1位から10位まで順位を付け投票するようにしてはどうか。自分にとっての年間ベスト10作品すら選び出せないほど映画への関心が低下してしまっている会員/ベスト映画10作品を選び出せないほど映画を鑑賞出来ていない状況にあるようなアカデミー会員にはお辞め頂いたらどうか。

など。


でも、こうして視聴率が一回低下しただけで「どこかを変革しなければいけないのではないか」という提案が出てくる状況というのはなんだか羨ましい。




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