「インディワイヤー」(Indiewire)による「2018年(第71回)カンヌ国際映画祭のラインナップにおける18のショックとサプライズ」 

Indiewire 2018/04/12付け記事(by Eric Kohn)
18 Shocks and Surprises From the 2018 Cannes Lineup, From Spike Lee to Jafar Panahi — and No Terry Gilliam

※ アメリカの映画批評家の見解です。




■ Netflix Isn’t the Only Absent Distributor
(不在となった配給会社はネットフリックスだけじゃない)

自己流 抄訳|ネットフリックスは「コンペ部門へ選出される作品はフランスで劇場公開をする必要がある」という挑戦的な命題に直面した。今回選出された17作品が(フランスでの劇場公開が確約されているのか)実情はどうなっているのかは分からないが、これらの作品はアメリカで劇場公開されるかどうかは不確かな状態に直面している。

コンペ入りした17作品のうち、アメリカの配給会社扱いの作品は3本のみ。A24配給『Under the Silver Lake』、フォーカス・フィーチャーズ配給『BlacKkKlansman』、アマゾン・スタジオ配給『Cold War』。(今のところ、アマゾン作品は1作品がコンペ入りしたけれど、候補作としてはまだ数本あった)

これは典型的なカンヌのラインナップだ。カンヌのコンペ部門は、アメリカ国内での挑戦的な外国語映画市場(=アメリカでの外国語映画市場は厳しい / アメリカの観客は外国語映画をあまり見ない)へ直面する国際的映画の広がりを支援する傾向にある。ネットフリックス騒動が起こったあとにさらに皮肉な情勢が今年のセレクションから浮かび上がってくることになった。





■ Two Americans Could Win the Palme
(パルムドールを獲る可能性のあるアメリカのフィルムメーカーは2人だけ)

自己流 抄訳|アメリカの映画は通常、カンヌで優勢となることはない。今年も例外ではなく、昨年同様コンペ部門にはアメリカ映画が2つしか選ばれなかった。『Under the Silver Lake』のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは、うまくすれば映画祭からのブレイクアウトで国際的に尊敬されるアーティストになれるかもしれない。下手すれば(2006年カンヌ映画祭コンペ部門に選出された)『サウスランド・テイルズ』と同じ扱いになる。

(アメリカ映画はカンヌで冷遇されているという恨み節。)





■ So Where Are the Women?
(えーと、それで女性監督はどこ?)

自己流 抄訳|コンペ部門には3人の女性監督作が入ったが、それは昨年と同じ数。ティエリー・フレモーは「女性監督は充分とは言えませんが、そのことについてここで話す時間はありません。作品はその本質的な品質によって選出されているというのが私たちの見解です。女性監督の作品だからといって選んでいるわけでは決してないのです」と語った。





■ Claire Denis Gets Cut?
(クレール・ドニは入らないの?)

自己流 抄訳|常連である日本の河瀨直美の新作にはジュリエット・ビノシュも出演しているがコンペ落選。クレール・ドニが手掛けたロバート・パティンソン主演のSF作品『High Life』(これにもジュリエット・ビノシュが出演している)は、コンペ部門だけでなく、ある視点部門やコンペ外部門にも入っていない。クレール・ドニは今世紀に入ってコンペ部門には選出されておらず、冷遇されている。





■ …And Ceylan, Too
(ヌリ・ビルゲ・ジェイランもいない)

自己流 抄訳|コンペ入り確実と思われたトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイランの新作も落選。仕上げが間に合わなかったのか他に理由があるのかは分からないが、カンヌでパルムドールを獲った監督の新作は自動的にカンヌへ選出されてくるものだと思っている人間にとっては愉快でない結果。
(追記|ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作『The Wild Pear Tree』は2018年4月19日付けでコンペ部門へ追加されました。)





■ Wither Lars von Trier?
(ラース・フォン・トリアーもいない)

自己流 抄訳|トリアーは今からおおよそ20年くらい前に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)でパルムドールを獲得し、その後もカンヌから暖かい祝福を受けてきたが、2011年『メランコリア』の時にナチス発言をして以来、歓迎されざる者になった。

ただし情勢はやや変化しており、カンヌでも議論をしている最中。トリアーの新作『The House That Jack Built』もお披露目の準備が整っているようなので、数日後に何か発表があるかも!? (ないかも!?)

問題は(出品させるために払う)努力に見合う価値がトリアーの新作にあるのかどうか、だけど。
(追記|ラース・フォン・トリアー監督作『The House That Jack Built』は2018年4月19日付けで コンペ外部門 へ追加されました。)





■ And Malick?
(あれっ、テレンス・マリックは?)

自己流 抄訳|2011年『ツリー・オブ・ライフ』でパルムドールを獲得したテレンス・マリック。ここ最近の数作品は評価が割れがちだったけれど、新作『Radegund』がマリックを国際的注目度の高いフィルムメーカーの位置に再び連れ戻すのではないかとされている。しかしマリックなだけに、いつ仕上がるのか未定。カンヌ出品のために仕上げを急ぐとは到底考え難い。





■ And De Palma?
(それから、ブライアン・デ・パルマは?)

自己流 抄訳|自分の作品が出品されていなくてもカンヌへやってきてフェスティバルの最中にカンヌをぶらぶらしている人として知られているブライアン・デ・パルマ。(そうなんだ……)

ガイ・ピアース主演のデ・パルマの新作『Domino』がクロージングナイト作品として選ばれるのでは…という噂があったが、今年のカンヌのクロージングはパルムドールを獲った作品を上映するという可能性もある とのこと。なので、どうなるか……(ダメかも)





■ Expect Some Last Minute Additions
(カンヌ開幕直前に追加されることを期待)

自己流 抄訳|可能性が残されているのは、テリー・ギリアム『The Man Who Killed Don Quixote』、2015年『サウルの息子』のネメシュ・ラースローの新作『Sunset』など。昨年のパルムドール受賞作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』はギリギリになって追加された作品。 なので、今年も「追加作品に良作あり」の期待がかかる……。





■ Where’s Amazon?
(あれっ、アマゾン・スタジオ作品は?)

自己流 抄訳|アマゾン・スタジオには今年も様々な手駒があったが(テリー・ギリアム『The Man Who Killed Don Quixote』も含む)、コンペ入りしたのは『Cold War』だけだった。

ウディ・アレンの最新作が入らないのは当然としても、マイク・リーの新作が入らないのはどうしたことだろう。理由は分からない。マイク・リー作品はいつもカンヌに暖かく迎え入れられていたのに。

アマゾン・スタジオ作品のうち、2012年『オーバー・ザ・ブルースカイ』のフェリックス・ヴァン・フルーニンゲンの新作『Beautiful Boy』や、2017年『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノが手掛ける『サスペリア』リメイク版は秋に登場する予定。(ベネチア?トロント?テルライド?)

映画やTVにおけるアマゾン・スタジオ作品の存在や方向性が浸透し続けていることが話題になる中、今回のカンヌでのアマゾン・スタジオ作品の冷遇ぶりは人々の話題にさらに加速をつけるだろう。





■ Panahi Sneaks In
(ジャファル・パナヒはひそやかにコンペ入り)

自己流 抄訳|ジャファル・パナヒはイランの保守派政権と対立し、2010年に自宅で拘束。そんな中でひそかに作られた『これは映画ではない』がカンヌで2011年に特別に上映された。2015年『人生タクシー』がベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞したことで、カンヌもパナヒ作品をコンペ部門に招き入れた。





■ Godard Forever … Again.
(「ゴダールよ、永遠に!」再び)

自己流 抄訳|フレンチ・ニュー・ウェーブ(=ヌーヴェルヴァーグ)のレジェンドであるジャン=リュック・ゴダールの『さらば、愛の言葉よ』が2014年のカンヌで初上映されたとき、この映画的エッセイ『さらば、~』は我を忘れ恍惚とした或るシネフィル観客があげた「ゴダールよ、永遠に!(ゴダール、フォーエバー!)」という叫び声を浴びた。(……ひょえ~)

ゴダール好きのシネフィルはこの87歳のフィルムメーカーがエッセイふうの労作『The Picture Book』で再びコンペ入りしたことを喜ぶだろう。ゴダールの新作は、人生の夕暮れ時に突入した彼が続けている実験としての映画製作に対する不可解なアプローチに係ることに夢中になっている観客を間違いなく困惑させ、そして、啓蒙するだろう。





■ A Trio of French Filmmakers
(フランスのフィルムメーカー3人組)

自己流 抄訳|今回コンペ入りしたフランス作品は3本。国家の関係を維持する媒体として彼らにカンヌでの役割が与えられたのは、まぁ良かったのではないか。(=フランスは自国映画の保護政策を取っているので、彼らの作品はその成果のアピールとなる)

2015年に『ディーパンの闘い』でパルムドールを受賞したジャック・オーディアールの『The Sisters Brothers』は今回カンヌでは披露されず、秋期の映画祭へ出品される模様。英語作品なので英語圏での映画賞(たぶんアカデミー賞)を狙うため。

そのことにより、エヴァ・ユッソンのようなキャリアの浅い監督へ席が譲られることに。





■ Asian Domination
(アジア地域の優勢)

自己流 抄訳|毎年いくつかの国で、自国の作品がコンペ入りせずに終わりガッカリしたり、ときには怒り狂っていたりする。今回、インドやルーマニアのコンペ入りはなかった。しかし、アジア地域は何の憂いもない。中国、日本、韓国から沢山オフィシャル・セレクションに入った。

中国のジャ・ジャンクーは16年にも渡る大河ドラマ的ラブロマンス映画『Ash Is Purest White』で、韓国のイ・チャンドンは村上春樹作品にインスパイアされたという映画『Burning』で選出。

カンヌ常連となっている日本の是枝裕和はここ数年カンヌで好評だ。2016年『海よりもまだ深く』はある視点部門へ回ったが、2015年『海街diary』はコンペ部門で好評を博し、愛された。今回は『万引き家族』という作品で2015年以来のカンヌのコンペ部門へカムバックとなる。

コンペ部門におけるアジア監督の存在感を締めくくる濱口竜介は、5時間の長編『ハッピーアワー』という前作に続き『寝ても覚めても』を製作した。『寝ても覚めても』は元カレにそっくりな顔をした男と恋に落ちる女性の物語だ。

新星の映画監督ビー・ガンの堂々たる前作『凱里ブルース(Kaili Blues)』(40分にもわたる長回しがある)に続く『Long Day’s Journey Into Night(地球最后的夜晩)』が ある視点 部門に。

ワン・ビン監督『Dead Souls』や、アピチャッポン・ウィーラセタクンをはじめとした4名の監督によるオムニバス企画『10 Years in Thailand』がスペシャル・スクリーニング部門に。韓国のユン・ジョンビン監督『The Spy Gone North』がミッドナイト・スクリーニング部門に。





■ No Luck for Latin America
(ラテンアメリカにとっては不運)

自己流 抄訳|コンペ部門に起きた軋みにはラテンアメリカ作品の欠落も含まれる。メキシコへ戻って作ることを長らく待ち望んでたアルフォンソ・キュアロンが撮った『Roma』はネットフリックス扱いの作品とはならなかった可能性もあった。

2015年『彷徨える河』のシーロ・ゲーラの新作『Birds of Passage』と Alejandro Landes 監督の『Monos』という二つのコロンビアの作品も、コンペ部門だけでなく ある視点部門 へも入らなかった。どうやら「監督週間」へ行きそうだ。

ラテンアメリカの作品としては、スペシャル・スクリーニング部門のカルロス・ディエギス監督作『The Great Mystical Circus』、そして、ある視点部門 のルイス・オルテガ監督作『The Angel』があり、どちらもコンペ部門ではない。

ラテンアメリカ地域でカンヌ常連のカルロス・レイガダスの作品が漏れてしまっているのが最も失望する出来事だ。彼の作品も2012年の『闇のあとの光』以降、カンヌへお目見えしていない。





■ And No Luck for “Loro”
(パオロ・ソレンティーノ監督作『Loro』の不運)

自己流 抄訳|今年のカンヌで最もドラマティックな企画のひとつにパオロ・ソレンティーノ監督作『Loro』があった。『Loro』は一人の人物を長期間にわたって描いている伝記もの作品なので2パートに分ける必要があった。

ソレンティーノはいまだ手直しをしているかもしれず、カンヌでは2パート丸ごと上映させたかったのかもしれない。(注|映画.com によると「前編が映画祭以前に公開になるために選出されなくなった」とのこと)





■ “Solo” Stands Alone
(『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ひとりぼっち)

自己流 抄訳|昨年は大手スタジオの作品はカンヌへ出なかった。カンヌでは過去に「オーシャンズ」シリーズ作品が上映されているので『オーシャンズ8』(コンペ部門の審査委員長ケイト・ブランシェットも出演)を招聘しようとしていたようだが、ワーナー・ブラザース映画は映画祭ルートで上映することをすっ飛ばすことにした。

ということで、ハリウッドのブロックバスター映画は『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のみになり、文字通り「ソロ」の状態に。





■ Sorry, Television
(ごめんね、テレビジョン)

自己流 抄訳|今年のラインナップにおける最大の歪みは単に映画にだけ限られていたというわけではなかった。カンヌは何年も抵抗していたけれど昨年やっとテレビシリーズにも門戸を開いた。ティエリー・フレモーは「素晴らしい作家が作ったシネマティックな作品だから」という理由でデヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス The Return』やジェーン・カンピオン『トップ・オブ・ザ・レイク ~チャイナガール』を上映した。

今年は、映画祭のお気に入り監督ラミン・バーラニが演出した『Fahrenheit 451』(HBO製作)が上映されるのではないかと推測されたが、そうならなかった。

フレモーは、仕上がっていればネットフリックス製作のコーエン兄弟演出『The Ballad of Buster Scuggs』を上映すると言っていたが、なにしろこれはネットフリックス製作の作品であり、ネットフリックスは今回一切カンヌへは作品を出さないとしているので……。バーチャル・リアリティ作品も今回は上映されない。



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